どんどん増殖する和製英語のいくつかをピックアップしましたが、中には修正されるものもありました。良い例がスマート (smart) です。
日本語でスマートは、かつては痩せているという意味として間違って使われていました。国語の辞書を見ても意味の一つに『 (1) からだつきがほっそりしていて格好がよいさま。「スマートな体型」』と書いてあります。英語の smart には無い用法です。英語で smart は次のような使い方をします。
She is smart. 彼女は頭が良い。
You look smart today. 今日は着飾ってすてきだね。
「ほっそりした」は、英語では slim や slender です。他に、lean は無駄なく引き締まった感じを意味します。逆にネガティブな痩せ型の表現として、thin (細い) や skinny (やせこけた)、slight (きゃしゃな) があります。なお、アメリカ英語では thin でも魅力的になります。
ところが、スマートフォンが出て来た頃から、スマートが「賢い」という本来の使い方に変わって来たようです。その前まで使われていたケータイ (ガラケー) は単純化されたウェブサイトを表示したり、メールを送るのが精一杯でしたが、iPhone が出てからは PCと同じウェブサイトを閲覧したり、アプリやゲームをストレスなく利用することができるようになりました。そこで賢い携帯電話として、英語のスマートフォン (smart phone) という呼び名でケータイとは区別されました。
このスマートの使い方から、スマート家電、スマートメーター、スマートシティー、スマート農業、など、本来の「賢い」という意味で製品やコンセプトがいろんなところで使われるように浸透しました。ファッションでもスマートカジュアルが洗練された軽装という意味でより広く使われるようになるなど、スマートはほっそり体型という意味では見かけなくなりました。こうやって和製英語が軌道修正される例も中にはあるんだなと少なからず希望が湧きます。それだけスマートフォンのインパクトが大きかったのだろうなと思ったりもします。逆に、スマートフォンしか知らないスマホ世代と、それ以前の世代は、このスマートという単語をどういう意味で使うかでどちらに属する分かってしまいます。
修正された単語は他にも、野球の和製英語のナイターがナイトゲームに改められたというのもあります。発音ではルーチンがルーティーンへ、トラヒックがトラフィックへ。古くはビルヂングがビルディングへや、メリケンがアメリカンへというのもありますね。ラムネとレモネードは別の飲み物になってしまいました。ラジオはもうレイディオにはならないでしょうね。