英語のアンテナ

英語過敏な私のお話し

ギネスは黒ビールではありません。スタウトです。

 「日本のビールはほぼ一種類らしい」という台詞のTVコマーシャルが出てきて「それってテレビでばらしていいの?」と思って見ると、大手が出す缶の ”クラフトビール” の宣伝でした。craft とは匠の技術の工芸などに使う単語です。craft の意味を英語辞書で調べると、

an activity involving a special skill at making things with your hands.

つまり職人が一つ一つ手作りしたものがクラフトで、工場で大量生産したものはクラフトとは反対の位置にあるものですね。そこで craft beer とは小規模醸造所で作られた、大量生産のビールとは異なるビールを表すためにアメリカで使われ始めた言葉です。それが日本では大量生産の缶ビールとは… 。飲料メーカーもブームに乗ろうと、流行りのクラフトと名のついたビールや、黒いラガーをスタウトと呼んだり、日本独自の酒税法の定義の隙をついて、欧米の定義ではルール違反的なネーミングのものが結構ありますね。

 

 ただ「ほぼ一種類」というのは本当で、日本では「 〜 ビール」といって様々な名前のビールが販売されていますが、みな ラガー、特にピルスナーですね。ビールには Lager (ラガー)と Ale (エール) があって、日本のビールはラガーに分類されるものです。エールの方にはブラウン・エールや IPA といったものがありますが、その一つ Stout (スタウト)という種類にアイルランド、ダブリンのギネス (Guinness) があります。また、アイルランド共和国の第二の都市コークはダブリンと何かとライバルになりますが、コークにもスタウトがあり、マーフィーズ (Murphy’s) やビーミッシュ (Beamish) というブランドのビールです。

 

ギネス

Guinness

 日本ではギネスを黒ビールと呼んでいますが、これには少々抵抗があります。ラガーとエールは作り方が違い、ラガーは下面発酵、エールは上面発酵で作られ、味やコクが違います。日本では以前ラガーが黒くなっただけの黒ビールが多くありました。日本人で私が話した人の中には「黒ビールはちょっと好きじゃないな」という人が何人もいました。苦いだけのラガーの黒ビール (個人的な意見) の汚名 (stigma) が、スタウトにも負の影響を及ぼしてしまって、ギネスを飲まず嫌いの人が多いようで悲しいです。私がギネスを宣伝するなら「ギネスは黒ビールではありません。スタウトです。」というキャッチフレーズを考えますね。

 

 アイルランド人はギネスについてこう言います。

 Guinness doesn’t travel well.

 ギネスは旅が下手/ギネスは輸送に耐えない。

同じスタウトでも現地アイルランドで飲むと、より美味しいギネスが飲めます。旅行に行った際は試してみて下さい。ギネスは泡 (head) 以外の部分が真っ黒になるまで待ってから飲むとスムーズで、これが美味しく飲むコツです。アイルランド国内でも美味しいギネスとそうでないギネスを出すパブがあると話題になります。ちなみにダブリンで一番美味しいギネスが飲めると言う人が多いのが Mulligan’s というパブです。

Mulligan’s

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リニアモーターカーはカーじゃない

 リニアモーターカーの2027年の開業を断念というニュースがありました。ところでこのリニアモーターカーは和製英語です。カーの付く「英語名」は注意ですね。そこでカーに関する和製英語の第2段です。


 リニアモーターカーは、リニアモーター技術にカーをくっ付けた日本で生まれた名前です。日本は本当にカーという名前をつけたものが多いです。英語の car は乗用車のことですが、日本では車輪が付くものをカーと呼んでいます。でもこのリニアモーターカーは車輪で走行しないのにカーとなった特異な例ですね。

マグレヴ

Maglev

 英語でも、列車を構成する個々の車両のことをアメリカ英語で car と言います。 (イギリス英語では carriage、coach 。貨車は wagon ) そしてそれが連なったものは train です。リニアモーター・トレインだったらまだ良かったかも知れませんね。リニアモーターカーは、英語では maglev train という名前で、短くして maglev (マグレヴ) という名前で呼ばれています。 maglev 自体は magnetic levitation (磁気浮上) から出来た言葉です。


 乗客を乗せる自動車以外でも、アメリカ英語では路面電車も streetcar で car が付きます。また cable car や変わったところでは elevator car (エレベーターの籠) もあります。どちらも箱の中に複数の乗客を乗せて、軌道に沿って動くところは共通ですね。

 

 英語では目的や大きさにより車の呼び名が変わりますが、自動車にはオープンカーがあります。オープンカーは乗用車なので car で間違いないのですが、英語では convertible といって、屋根の状態が変えられることに主眼が置かれています。アメリカの都市部以外では荷台の付いた車が人気がありますが、これもカーではなくご存知 pickup track で、トラックです。 ワンボックスカーは英語では minivan で、ヴァンです。

エクスカヴェイター

Excavator


 car は人を乗せる車ですが、では車が車を乗せるとどうなるかということになります。日本ではキャリアカーと言っていますが、英語では car carrier trailer です。最後に car に似つかないものにショベルカーがあります。重機 (heavy machinery) もカーと呼んだんですね。これは英語では power shovel または excavator となります。今後、新しく出てくる重機に「カー」は無いですよね。

 

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ヨーダの台詞に驚いた話/帝国の逆襲

 映画の話をする時に結末や重要部分がわかってしまう話を spoiler といいます。そこで「ネタバレ注意」は英語で spoiler alert (スポイラー・アラート) です。この後、スターウォーズ 帝国の逆襲の中身をお話しますが、見ていない人のために spoiler alert と宣言します。 今更、スターウォーズの人物関係を知らない人はいないと思いますが、映画ファンとして一応、spoiler alert を発しておきます。

 

 小さい頃は洋画を見るときは必死に字幕を読んでいたので、帝国の逆襲 (Star Wars: The Empire Strikes Back) を映画館で見た時は唯一字幕から全ての情報を得ていました。英語を勉強するようになり余裕もできて、何年ぶりかに帝国の逆襲をDVDで見ながら英語の台詞を聞いていると、ルークがジェダイの訓練半ばでヨーダの元を去るシーンで、オビワンの言葉に対して、ヨーダの次のセリフが出てきます。

ヨーダ/スターウォーズ 帝国の逆襲

ヨーダ/スターウォーズ 帝国の逆襲  (C) Lucasfilm Ltd.

オビワン: That boy is our last hope.
     (あの子が私達の最後の希望です。)
ヨーダ:  No. There is another.

 

 え、その台詞ってすごく重要じゃないか!

 

 There is another.  は公開当初の映画館の字幕では「いや、そうでもない」または同様の意味になっていたと記憶しています。なぜなら私にとっては情報源は字幕しかなかったので、そうだったと言えます。誰か確認できる人いませんか。今では DVD などでも字幕は「いや、もう一人いる」みたいになっているようですが、かつて、英語の原文を初めて知った時は衝撃でした。「『もう一人いる』って言ってたの? 『そうでもない』とはずいぶん違うよぉ」といった具合。当時にもう一人の存在を知らされていたら衝撃は倍以上だったと思います。

 

 でも字幕の翻訳者は苦労したんじゃないかと想像できます。ヨーダの「 another 」とは、boy に対して「もう1人いる」と言っているのか、hope に対して「もう一つの希望がある」と言っているのか解釈の余地があると思います。かつてインターネットもない時代には、ルーカスフィルムよる映画公開前の情報統制も厳しく、次の作品のジェダイの帰還 (Star Wars: Return of the Jedi) でレイアが妹と明かされることなど知る由もありません。「いや、そうでもない」は最善の落とし所だったと思います。ちなみに、ここはとても重要なセリフなので、英語ではヨーダのいつもの変わった語順の話し方はしていません。

 

 でもこの会話、腑に落ちないところがあります。後に作られたシスの復讐 (Star Wars: Episode III – Revenge of the Sith) では、オビワンは母親パドメのルークとレイアの出産に立ち会っています。すると帝国の逆襲の時点ではレイアの存在は知っていることになるので、オビワンの知らない another とは誰になるのかいうことになります。でも、まあこれは明らかにレイアのことで、ストーリーを後から付け足したことの弊害だろうと思います。たぶん… 。

 

お題「忘れられない映画やドラマのセリフ」

住宅の変な英語のリフォーム

 家をリフォームしましょうという広告を見たりします。これがまた気になります。以前、日本では「タッチ」が色々なところで使われていると書きましたが、re〜 も好きですね。

 

 話は逸れますが、映画 007 シリーズの第二作目、007 ロシアより愛をこめて (From Russia with Love) は公開時にはタイトルが 007/危機一発というものでした。本来の「危機一髪」という日本語を、映画の性格から「危機一発」とした言葉遊びのタイトルです。最近の映画のタイトルは英語をカタカナにしたものがほとんどなので、昔のこのような日本語の言葉遊びはマーケティング的には面白いですね。

 

 でも英語がネイティブ言語ではない日本で、紛らわしい英語の造語や言葉遊びは控えてほしいですね。和製英語が生まれて英語を学ぶ人が苦労するだけです。パン製造メーカーがパンのパッケージ上で、パンをリベイクしようと謳ってキャンペーンをしていますが、リベイクは和製英造語です。これは確信犯と思われるのであえて和製の英造語と呼びます。bake は焼くことで形が作られることを指すので、調理済みの食べ物をを温め直したり、再加熱するなら reheat です。またはそれらに焦げ目を付けるなら toast です。

リベイク・キャンペーン

rebake?

 先の気になったリフォームですが、使い方が和製英語です。日本では家の内装を変えたり修繕することをリフォームと言いますが、英語の reform は制度などを改善するという意味の単語で、制度改革といった使い方がありますが、建物の改造には使いません。日本でリフォームというときの英語は renovate です。その他に remodel や refurbish があります。remodel では壁を作って改造したり、refurbish は店を改装するなどで使えます。

  • renovate: 修理、改装する 
  • remodel : 改造、模様替えする
  • refurbish: 改装、磨き直す

 

 住宅関連でいうと、リハウスというものもあります。リハウスは「住みかえ」という意味で使われているよですが、英語には実際に rehouse という単語があり、意味が違います。rehouse は被災した人などに新しい住居を与えることです。製品に付けるにはマーケティング的にあまりよろしくないですね。似たような単語に rehome があります。これはシェルターにいる犬や猫の引き取り先を見つけ新しい飼い主を見つけてやることです。英語っぽい名前を付けるときは、一度、カタカナ語を rethink して、辞書のチェックは欠かせませんね。

 

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英語でもテイクアウトと言いますよ

 パンデミックが発生した後、飲食店では出前や持ち帰り対応のお店が多く見られるようになりました。今ではお店の外にはテイクアウトと書かれたのぼり旗をよく見ます。ネット上ではこのテイクアウトについて「英語ではテイクアウトとは言わない」とか「ほぼ使わない」とか、テイクアウトは和製英語だと言わんばかりの情報が氾濫していますが、英語でも takeout と言います。ただ日本でのテイクアウトの使われ方が間違っているだけです。動詞も名詞も形容詞もごっちゃにしてしまい、このような勘違いが生まれるのでしょう。


 これはアメリカのTVドラマの字幕を表示させたものですが、

 ” … eating Chinese takeout, ”
 「… 中華の持ち帰りを食べたり、… 」と言っています。

アメリカの TVドラマ

 ファストフードのカウンターなどでは確かに「テイクアウトですか?」とは聞かれません。そこでは次のような感じに聞かれるでしょう。

 ・ For here, or to go?  (Is that for here or to go?) 
 ・ To stay, or to go?  

店の人は、お客さんが持ち帰り料理が欲しいのかを聞きたいのではなく、買った料理をここで食べるのか持ち出すのかを聞きたいだけです。それによって料理を、トレーの上に出すのか、紙袋に入れるかの対応が変わって来ます。(地域によっては料理にかかる税金も変わります) そこでカウンターでは「ここに居るのか、外に行くのか」ということが聞かれます。

 

 takeout は動詞ではなく、以下のように名詞か形容詞として使われます。

 ・ to eat takeout.  持ち帰り料理を食べる。(名詞:上記のTVドラマと同じ)
 ・ to order takeout food.   持ち帰り用の食べ物を注文する。(形容詞)

なお、take out :  動詞 + 副詞 の句動詞としての「連れ出す」、「抜く」、「殺す」、とは別物です。

 

Chip Shop

 日本ではアメリカ英語の「テイクアウト」が定着していますが、イギリス英語では takeaway (テイクアウェイ) と言います。個人的にはイギリス英語の表現の方が持ち去るといった感じが出ていて「持ち帰り」には合っているように感じますが、いかがでしょう。

 

ネス湖のネッシーとグレンダロック

 2023 年夏にスコットランドにあるネス湖でネッシー探しの大規模な調査が行われたとニュースがありました。最新のテクノロジーを駆使して調査をしましたが、その後、何も見つからなかったということでした。ネス湖のネッシーは英語では Loch Ness monster と呼ばれています。オープンソースのオンライン辞典を見ると、ネス湖の英語の発音として「ロッホ・ネス」と書いてあったので、「ロック・ネス」と修正したところ、コンテンツの番人に一瞬にして元に戻されました。発音記号が隣に書いてあって間違いと分かるのにね。(この辞典の日本語版は外国の情報に関しては間違いが多いですね。)

ネス湖のネッシー

Nessie

 Loch はケルト語派では湖のことです。スコットランド・ゲール語やアイルランド語に出てくることがあり、 発音記号では [lɑx] や [lɔx] です。[x] は無声の摩擦音になります。英語には無い音で、ケルト系の言語を話さない人のことを考慮したのか、[ k ] の子音で代用されることもあるようです。日本語は発音に母音が必ず入るので日本人には難しい発音です。英語での発音はアルファベットの X を発音記号で表した時の [ eks ] から e と s を除いた時の音と考えると想像がしやすいかも知れません。これは舌の根元で空気が出て音声になる前に止めるという感じです。そこで英語圏ではネス湖の怪獣はカタカナにすると「ロック・ネス・モンスター」に近くなります。音声の付いた電子辞書などで loch と調べると発音を聞くことが出来ます。そうすれば明らかに「ホ」ではないことが分かるでしょう。

 

 アイルランドに住んでいたことがあり、そのころ何度か行ったところが、首都ダブリンの南のウィックローというところにある Glendalough です。首都近郊の人気の観光地で昔の教会跡です。それまで現地の発音を元に「グレンダロック」のような発音で呼んでいたので、日本に戻って日本語の観光ガイドブックを見た時にグレンダロッホと紹介されているのを見て「グレンダロッホって何?」と驚きました。この場所は英語では Glendalough と書かれていますが、これはアイルランド語の発音を元に英語化 (Anglicized) された綴で、アイルランド語では Gleann Dá Loch と綴られます。この地名もカタカナで書くなら「グレンダロック」の方が近いでしょう。意味は「二つの湖の谷」ということです。日本で見かける本や雑誌、ネット情報などでは、どこもグレンダロッホになっていますね。


 余談ですが、作曲家のバッハ (Bach) をドイツ語ではなく英語で発音した時も [ba:x] となって最後は軽い「ク」の音に近いような子音で、これも強いて表記するなら「バック」です。


 スコットランドの Burn's Night (1/25) があった後、ウェールズの St David's Day (3/1)、そしてアイルランドの St. Patrick's Day (3/17) と、春はケルトな気分になるので、こんな話題を取り上げてみました。

 

映画の続編の英語

 映画の賞の行方が注目を浴びる時期になりました。近年のハリウッドの傾向は CGI などに多額の製作費をかけたものが多く、ヒットの安全策としてのシリーズ物が多く作られています。特によく目にするようになった映画の種類にお馴染みの prequel があります。主人公が死んでしまったり、目標に到達してしまってこれ以上続編が作れない時に、その主人公の生い立ちなどを遡って語るストーリーが prequel です。主人公のその後のストーリーを描く続編、sequel に「前の」という意味の pre- を足して作られた言葉です。また古い作品を仕切り直しをして作る reboot というものもありますね。

 

 以前は主人公が引き続き活躍する続編、sequel が主流でしたが、過去にはゴッドファーザー Part II のように、亡くなったキャラクターの過去の prequel と現在の主人公の sequel とを並行して見せるという賢い作りもありました。ちなみに続編がアカデミー作品賞を取ったのは2作品しかありません。ゴッドファーザー Part II (The Godfather Part II) と ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 (Lord of the Rings: Return of the King) です。

アカデミー賞

 このゴッドファーザーのように一つのテーマやファミリーを3本の映画でセットとして作られるような時に使われる「三部作」は3を表す tri- を使って trilogy と呼ばれます。では、マトリックス (Matrix/ メイトリックス) は四作あるので何というかというと、tetralogy となります。これ以上は series となるようで、series は幾つもエピソードが作られるもので、007 のようなものが良い例でしょうか。

 

 TVドラマに多い、話がつながっている連続ものは a serial です。このようなストーリーが連続になったものを表す形容詞は serialized といいますが、逆に一話完結のシリーズものは episodic と言います。そんなドラマでもシリーズ全体を通して主人公が関わる大きなストーリーがある場合があります。これは story arc と呼びます。例えば、刑事が一話毎に事件を解決するのは episode ですが、そのシリーズ全体を通してその刑事が失踪した息子の手掛りを探しているといったときに、息子探しのストーリーが story arc です。

 

 作品の中の脇役があまりにも人気があるので、そのキャラクターを使って新しい独自の作品が作られるのがお馴染み spinoff です。スターウォーズのハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー (Solo: A Star Wars Story) が独自の映画になったのはこれですね。あるドラマのキャラクターが全く別ドラマのエピソードに登場したりすることを crossover と呼ばれます。今ではマーベルの映画のように、 crossover というよりも、独立した stand-alone の作品群を、初めからミックスするつもりで時間をかけて一つの世界を構築して行く、cinematic universe があったり、MonsterVerse や Spider-Verse のように 〜verse と呼ぶのが流行っていますね。

 

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